2重反転プロペラ電動F3A機と可変翼F3A機
 【 2重反転プロペラ電動F3A機 】
めったに買わないRC Air WORLD誌だが4月号はかなり興味深いOK模型が開発している2重反転プロペラを装備した電動F3A機が載っていたのでついつい購入してしまった。そもそもこの出版会社は色々な分野の雑誌を発行していてグラビヤ写真が売りになっている。掲載されている写真は発色も良く明らかにデジカメで撮影された写真でも彩度が高く良い仕事をする印刷所で製本しているようだ。特に近年のペットブームで老舗の愛犬家雑誌に対して、やはりグラビア写真をメインにして犬種ごとにタイトルを分けてくるなど営業的に成功している。
そんななかでOK模型が試作したF3A機の「SeductionWCR」が目を引いた。目を引いたと言っても「?」の部分が多く、その設計思想は何を目指しているのか謎の部分が多すぎる。そこでその謎の部分を箇条書きにしてみてその目的を推測してみることにするがあまり詳しい事や思い違いもあると思うがその時は指摘をお願いします。
まずは2重反転プロペラ・・・・( ゚Д゚)/
プロペラの反トルクが発生しないのでサイドスラストが不要で反トルクのクセが出ないとの事だが、ここまで大掛かりな機構を搭載して対策するほどのものではなくサイドスラストで手軽に修正が可能だ。
しかも使用しているプロペラが15×10と言う事で動力性能的にも?だと思う。一時期チップハイド氏がプロペラの2枚重と言うサプライズな手法を使っていたが、その時は17×12程度のプロペラをギヤダウンではあるが使っていたので15×10を使うと言う事は動力性能がかなり低いのではないかと思う。回転数で稼ぐなら7000〜8000rpm以上回さないとパワー的には苦しいのではないかと思う。
ちなみにモーターもデュアル、アンプもデュアルなので各々10セル使えるなら動力性能はかなり有利だと思うがこのクラスのモーターでは10セルは無理かな、ちなみにFAIのルール上でも10セルのデュアルは微妙かも知れないので世界選を目指すならルール上で微妙なところは用いない方が得策だ。
エンジン機で2重反転に挑戦したスタントフライヤーが以前ラジ技に掲載されていたのであまり新鮮味ないが、ただこのような機構をスタント機に組み込んで挑戦してみようという姿勢は大いに評価できる。
トラス組のような胴体構造・・・・( ゚Д゚)/
Seductionの名前の通り、まるでSeductionWS(ワイルドスタイル)のようなレーザーカット(かな)によるトラス組のような構造にフィルム張りの設計は実機でも現在はほとんどモノコック構造(応力外皮構造)が主流の中であまりにもクラシックな設計だ。
製品化されないそうだけど、これで某社のファンフライやアクロ機のキットのように「垂直降下ではフラッターが発生する可能性があります・・・・云々」とマニュアルに書いてあったら怒ります。スタント機は垂直上昇と垂直降下の繰り返しでしかも降下ではある程度パワーを入れているし、スナップロールも行わないといけない、このような構造で空力的な応力には耐えるかも知れないが、はたして剛性不足になりやすいこの構造でフラッターなどが発生しないかと疑問に思う。フルサイズ機はこの対策のため高額なSSバルサをふんだんに使用している。まあ、4サイクルエンジンの強力な振動に耐える為にも外皮に穴が開いている事は許されない。
フラップ・・・・( ゚Д゚)/
今の時代、何故フラップ? 以前のスピードスタントの頃は今では考えられない位の高翼面荷重だったので(80g/デシ平方メートル位は平気であった)縦物の演技では空戦フラップとして、着陸でもエアブレーキと併用していた。
今は演技がかなり大きく、角物の演技、例えばアワーグラスでもコーナーでそれほど鋭角の引起しは必要がなく翼面荷重が低いのでエレベータのみで充分で逆に空戦フラップを装備して引起しをきつくするとマンセー(万歳)の危険性が高くなる。まあ、フラップを使っても使わなくても、きつい引起しは今ではあまり好まれない。
着陸ではエルロンによるエアブレーキがあるのでフラップに関しては今や出番は全くない。
重量物を重心位置付近への搭載して運動性を向上・・・・( ゚Д゚)/
よく実車のF-1やRCカーでも重量物をセンターに集中させて慣性を減らして初期動作をクイックにする、つまり運動性を向上させている。これと同様のポリシーを用いてこのヒコーキは設計されてされているとの事がだ、ちょっとキツイ書き方になるが、はたしてこのヒコーキの設計者はスタントをやった事があるのかという疑問が生じる。
何度も書いて、自分では全く出来ていないので少し食傷気味ではあるがスタントの基本は水平飛行で翼の傾きや揺れ、若干でも降下や上昇は一切許されない。近年日本がこれまでスタント大国になったのも成家さんや検定会でおなじみのJRAの役員の方が事あるごとに水平飛行の重要性を説いたのがそのファクターのひとつになっていると思う。
運動性が良い初期動作がクイックな性格のヒコーキではこの基本となる水平飛行で翼を揺らしたり、上昇や降下のきっかけを作ってしまいやすい。そこで現在ではエンジンやRCメカなどの重量物は機体内に分散化する傾向になっている。またシュートノーズ、ロングテールモーメントにより尾翼容積の大容量化、最近はZequeなどから取り入れられた設計ポリシーで主翼は極端に薄翼、水平尾翼はそれと対比するように厚翼化、ラダーの後縁はブチ切りで今や10mm位厚みのあるのは当前だ。つなり空気抵抗をわざと後部に集中させて運動性をセーブして直進性を増している。言い換えればラダーやエレベータの初期動作を鈍くしている。
今はあまりやらないと思うが以前は翼端にオモリを搭載してロール方向の慣性を増加させるといった事も行われていた位で今日のスタント機はいかに動的な安定性を持たせるかを様々な施策を行っている。
世界選を目指すと書いてあるので日本選手権に出場して上位入賞、さらに国内選抜を勝ち抜かないといけない、日本は他に類を見ないスタント大国で世界選に日の丸を付けて出場するのは並大抵の事ではない。まして現在の上位選手は自信で熟成したオリジナル機を使っているので実験的な要素を多分に持つこのヒコーキの入り込む余地はないと言っても良いと思う。また、現在の電動機ではまだ選抜を勝ち抜けること自体もむずかしいような気がする。
このメーカーはグローバルな営業展開をしているので、どちらかというと海外のフライヤーにも使ってもらいそこから世界選に出場した方が手っ取り早いと思う。

 【 可変翼F3A機 】
その昔、伝説のワールドチャンピオンであるハンノ・プレトナ氏が君臨する前、あまりにも大胆かつ先進的なワールドチャンピオンが席巻していた。その名はブルーノ・ジーゼダンナー氏、氏が世界戦を勝ち取ったヒコーキはF3Aの世界選に引込脚を装備した「マラブ」を持ち込んで話題性と計算された綿密な戦術の飛行技術でまんまとチャンピオンカップを手にした(この戦術は機会が有ったらまたUPします)。その後F3A機は引込脚を装備するのが常識の時代に突入していく。
その次の大会では話題性を何よりも重視する氏は長い歴史を持つF3Aでも最も独創的なヒコーキを持ち込んだ。「サラマンダー」と名づけられたそのヒコーキは何とF-14Tomcatのような可変翼機だった。しかもループ系の演技ではほぼテーパー翼機と同様の平面形に遷移して行い、ロール系の演技では翼をかなり後退させほとんどデルタ機に近い平面形になるというユニークなもので、成績はあまりにも特殊なヒコーキだったのでイマイチだったが、このヒコーキで実際に世界選に出場して戦ったのだから驚嘆する。
後退させて翼を休める「サラマンダー」、この状態でロール系の演技を行った。重心はどのように移動させていたか今となっては永遠に不明となってしまった。
ニードル調整を行う故ブルーノ・ジーゼダンナー氏、翼は普通のテーパー翼機と平面形は同じになる。メインギヤは胴体内に収納する構造になっている。
※写真はラジコン技術1973年11月号より
その年はあの吉岡氏がブルーエンジェルでワールドチャンピオンになった年でもある。その後ジーゼダンナー氏はプレトナ氏やマット氏の台頭によりチャンピオンの座に返咲くこともなかった。だがラジ技で見た「サラマンダー」は今でも脳裏に鮮明に焼きついて、そのカッコ良さにまだ子供だったのでその時はワクワクして自分も何時かこんなギミックを施したヒコーキで正確なスタントをやりたいと思い描いていた。ひょっとしたらその後、スタントに熱中するきっかけになった程のインパクトがあったのかもしれない。
日本でもその後、可変翼機は何機か製作されたが日本選手権はおろかスタント大会に出場できるレベルのものはとうとう出てこなかった。そしてジーゼダンナー氏はそれから数年後、この世を若くして去ってしまうと言うショッキングなニュースを耳にしてこのヒコーキが存在し世界選を実際に戦った事実のみが脳裏に残されるのみとなってしまった。

(2007/03/12 記)