「まる」と「じゅう」

モノの呼び方は業界やその分野々で独特なものがあり初めて接する者には戸惑うところがある。こと、ラジコン界でもそんな呼び方が存在し、その際たるものがエンジンの大きさを表す60とか140などの数字ではないだろうか。
はるか昔、Uコンを始めた頃にせせっと買っていいたUコン技術誌にはご丁寧にエンジンの呼び方が書いてあった。吉田氏のUコン入門の連載マンガで当時は夢中になって読んでいた。そこに09なら「キュウリ」ではなく「ゼロキュウ」、15なら「イチゴ」ならぬ「イチゴウ」という今では笑えないギャグで説明してあった。当時のUコンはこのクラスが主流でもう少し大きくなると19、大型機は29や35というサイズがENYAやOSから発売されていて、さらにエキスパートクラスではるか雲の上の存在でENYAから45BBというエンジンが発売されていて、クランクケースとヘッド周りの冷却フィンがスリムですっきりとしたデザインが施してあり憧れのエンジンでいつかはこのエンジンを載せたヒコーキを飛ばしたいという夢を抱いていた。
ラジコンはお金がかかってしまうので中学生時代はひたすらUコンをやっていたが、すんでいる所が田舎だったせいかあまり周りにはラジコンにしろUコンにしろヒコーキをやっている者がいなくて情報源はUコン技術やラジコン技術だった。特に主翼が大きくてあまりカッコが良いとは言えなかったUコンのスタント機とは違いバランスのとれたラジコンのスタント機にはこの頃から大いなる憧れを持っていた。搭載されているエンジンは60クラスで当時09や15のエンジンしか見たことがなかったのでその大きさが見当もつかず、やはり雲の上の存在だった。 高校の受験が終わり入学までの1ヵ月間はバイトに明け暮れてプロポを買う資金をせっせと貯金し、念願のプロポを購入するために松本市にある模型屋に足を向けた。店内のショーケースに飾ってあったENYA60Vの大きさに度肝向かれた事を覚えている。ところで仲間内では60の事を「ロクゼロ」と読んでいたが、模型屋のオヤジはあろうことか「ロクマル」と言うのだ。何ともなじめない呼び方だ、0を「マル」と読むのは何とも田舎くさい呼び方のように感じて、これは田舎独特の呼び方に違いないと思っていた。
少しすると15クラスの練習機も卒業しかけの頃、ちょうどれヒノデ電工(現テトラ)から肩翼機でスタイルの良いペガサスシリーズに40クラスが発売された。ペガサスは今までに15Rと20と飛ばしてきたお気に入りのシリーズだ、エンジンはクラブ仲間から評判の良かったOSの40RCというエンジンもその時一緒に購入したが、以前のような抵抗もなく「ヨンマル」と呼んでいた。
その後、進学して愛知県の江南市に下宿生活する事になり、学生時代は近くに飛行場のある鯱クラブにお世話になったが、F3Aの日本選手権出場者を擁するこのクラブでもやっぱり60は「ロクマル」と呼んでいた。う〜ん、エンジンの名前はやっぱり垢抜けないなと感じていた。 そして、就職して大阪に住むようになり、金銭的にも学生時代よりは余裕ができたので本格的にF3Aにのめり込むようになり、そこで知り合った当時日本選手権でも上位にいつも顔を並べている近久氏や何度も日本選手権で勝って世界的にも有名な加藤氏と一緒に練習できる環境となりがむしゃらに飛ばしていたが、そこではエンジンの呼び方が違っていた、60ことをそのままずばりの「ロクジュウ」と言うのです。大阪なので関東とは違いアクセントが「ロク」の方にあり「ク」の方が若干「ロ」よりもイントネーションが下がるまんま大阪弁の呼び方でした。他にも40は「ヨンジュウ」、20は「ニジュウ」と言う具合で、何か今までもやもやしていたものが一気に吹っ飛んだ感じがした。
大阪方面はOSの本拠地であるので回りはみなOSのエンジンを使っていたが、加藤無線の加藤さんはちろんYSを使っていたいた訳だがその頃ばろの群長はENYAエンジンの信者と化し何がなんでもENYAを使い続けた。当時、国内では不評のペリーポンプを事もあろうかENYAでは採用してGM-10という大口径で当時は珍しい中速ニードルを装備したスロットルをまとったビンビンのパターン用のエンジンを発売した。これをマットアローに搭載したところ、その飛びの良さはOSやYSをしのぐ所があったと思う(少し手前ミソが入ってるかも)。すると競技会ではどこのエンジンですかとよく訪ねられた。そこですかさずENYAの60「ロクジュウ」です。と得意になって答えたものだ。(^o^)丿
家にIターンして松本市でまたヒコーキを飛ばすようになったが、しばらくするとスタントの世界にも4サイクルエンジンの波が押寄せてきた。F3Aでは4サイクルの場合、20ccまでOKとなり各社いっせいに120クラスのエンジンを発売した。当初ENYAの120を購入したがパワーの点でYSに大差をつけられてしまい、2台目はYSのエアーチャンバー付を買った。比較的早く120のエンジンを買ったので当初から「ヒャクニジュウ」と呼んでいたが、すっかりそれが松本平のデファクトになり60を「ロクマル」とか90を「キューマル」と呼んでいる人もこと120になると「ヒャクニジュウ」と呼ぶようになり良い傾向だと思った。少数派で「イチニーマル」と呼ぶ人もいたがやっぱりその呼び方は田舎臭く感じるのであった。
最近ファンフライ機のエンジンとしてYSからは53や63、サイトーからは56、OSは52と小型のエンジンのラインナップとして充実している。これらエンジンの呼び方はもちろんYSなら「ゴジュウサン」と「ロクジュウサン」、サイトーなら「ゴジュウロク」、OSなら「ゴジュウニ」と呼ぶのが新しいジャンルであるファンフライの世界ではデファクトなのではないのだろうか、このコラムを読んでくれているファインフライファンの人もこれからはこんな風に呼んではいかがかな。

(2003/02/01 記)