キレイとキタナイ

プレトナ氏が「キュラーレ」を駆って世界選に勝った年にRC仲間が見に行ってきた。帰ってきてからそのお土産話にしっかり聞きいったものだったが「プレトナ氏の演技はまるで図に書いたようにキレイだ」という言葉とキュラーレの仕上げは「フィルム張りで練習機のようにキタナイ」というこの二句が事あるごとにとび出してきた。当然、プレトナ氏はこの後何年も世界チャンピオンに君臨し、独創的なヒコーキの設計は世間をアッと言わせた伝説の人である。
日本では日本選手権に出る人のスタント機といえばドープかウレタン塗りで最終フィニッシュにコンパウンドがけをしてツルツル、テカテカをすぐに想像する。ところが海の向こうの世界チャンピオンはよりにもよってフィルム張りで、しわがよっていて、胴体は刷毛塗りだという・・・・。そんなバカなと話を聞いている者は言返したが、どうやらそれはまぎれもない事実のようだった。
日本では昔から職人気質の完成機屋さんという職業が存在する。副業でやっている人もいるが、これは海外、特に欧米ではおおよそ考えられない職業だと思う。逆に日本ではそれだけ需要があるということになるが、歴代の欧米F3Aチャンピオンは基本的には自分の手によって自分の飛ばすヒコーキは作っている。模型ヒコーキは作る事から始まるというのが基本的な考えとして根底にあるからだと思うが、特にF3Aなどのスタント機は飛んでナンボの世界、スケール機のような静止点というのはもちろん存在しない。そこに価値を見出すのは何とも日本人ならではの気質ではないだろうか。

関西地区の予選会にて。奥のキュラーレが師匠のヒコーキで手前がばろの群長機。プレトナ氏の配色を忠実に再現してみました。

キュラーレと言えば日本人の発想では考えも及ばないラテン系の派手な配色とジェット機によくに見られる水平尾翼の下反角である。スーパーシクロリーからの低く胴体と一体化した垂直尾翼の流れを持ち、翼型も前縁部分が尖っていて全体的にすっきりとした新設計となっており、効果はいかほどのものかは全く不明だが下反角付きの水平尾翼というギミックを持ちそれなりのインパクトのある設計だった。下反角は日本でも流行してかなりのスタント機が採用したが、下降時の直進性が増すとか諸説紛々だったがその効果を具体的に説明できる者はいなかった。
色彩感覚の乏しい日本人は中間色の感覚が欠如していると言ってもよい。昨今の赤、青、黄色と原色のみで配色するデザインはいかがなものかなと常々思っているのだがこのキュラーレはまさに「晴天の霹靂」とも言えるインパクトのある配色だった。まず、今まで日本では面と線を組合わせたよく言えば繊細なデザイン、悪く言えば・・・・(自粛モード)が主流であったがキュラーレはほとんどが面で構成されていて、対比色のオレンジとメタリックグリーンという中間色をメインに、アクセントとして原色の黄色と赤が実に巧みに使用されていた。のちにMKがキット化しパッケージ写真ではオレンジが朱色、メタリックグリーンが紺と何とも日本的な中間色に改められてしまっていた。次作のマジックでは主翼にMAGICという大きく書かれた文字までもが配色デザインを担うという大胆な配色ですっかり感化され、自作のヒコーキにはその手法を大いに取入れさしてもらった。
知らない人からはオリジナルカラーのキュラーレを飛行場に持っていくと「ダッセー」とか「ミグセー」とかよく言われてしまったが、本人はこれだから日本人は・・・・と暗く心の中でつぶやいていた・・・・